沼底その2

時々とうらぶについて唸る

噂の刀展行ってきました

5月8日までだった、奈良薬師寺の「噂の刀展」と「仏教と刀」展を終了1日前に見てきました。
薬師寺に到着したのは朝9時頃だったんですが、終了1日前でさらにGW中とあって結構な混み具合でした。
そのレポというか感想雑記です。

「噂の刀展」

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こちらの展示は薬師寺の広大な(ほんと広い)敷地の中でも北の方、聚賓館にて。
以降は企画者?である日本刀剣博物技術研究財団さんの章分けに沿ってご紹介。

1章 噂の刀〈刀剣乱舞など〉

陸奥守吉行を始めとして、同田貫正国、兼定は二代目と十一代の両方、青江、加州清光、長谷部国重、大和守安定、国吉、国永、国俊、ともう絶対殺すマン的なラインナップ。

それより絶対殺すマンだと思ったのが虎徹の真贋鑑定。
この展示、ほんとに日本刀初心者のために日本刀のどこを見たらいいか、いくつも聞く専門用語は一体何を言っているのか、を丁寧にわかりやすく解説することを旨としているようでして。その一つとして、「沸」と「匂」の実例を見せてくれているのです。
それが、虎徹の偽物と本物。
片方は「沸」の実例として、もう片方は「匂」の実例として展示されてたのですが、同時に、「片方は偽物です」と添え書きがありました。
つまり虎徹の特徴と虎徹が活躍した時期から、このどちらが虎徹の真作か当てろと。なお答えはWebで、とのことでしたが、どこのページですか日本刀剣博物技術研究財団さん。
それにしても素人目にも随分違う刀に見えましたが、この偽物を作った人は何を思ってこう打った上で偽の銘を切ったんでしょうねえ。

その次に並べられていたのが陸奥守吉行。
キョーハクの展示は見に行けなかったので竜馬の佩刀であったむっちゃんについては分からないんですが、こちらの陸奥守吉行さんは刃紋がやけに広く感じました。刃の半分以上を刃紋が占めるような勢い。光の加減かな?
その刃紋ですが、大きくやわやわとしている感じでした。それらしい描写をするなら「匂い」の方寄りっぽい感じというんでしょうか。くっきりしているけれどギラギラしている風ではなく、全体に明るい印象がありました。

その下が同田貫が2振り。
同田貫については刀と一緒に薙刀も展示してくださってまして、この薙刀がもうほんと美品。
どちらかと言えば1本名品を作るより10本武器を作る姿勢だったらしい同田貫の刀の中で、特別丁寧に作られたという薙刀に刀工の矜持が込められているようで実に存在感ありました。
逆にもう一本展示されていた刀は「うん、刀だな」という感じ。もう少し工業製品よりとでも言うんでしょうか。もちろん展示物だけあって状態はすこぶるいい(んだと思います。作られた時期を考えるとなんでサビがないんだというだけでもほんとすごいことだと思うんで)んですが、薙刀ほどの存在感があるかと言われるとどうだろうという感じ。ただ、この「ごく普通」っぽいのがおそらくとうらぶでの同田貫なんじゃないかなと。

それから加州清光と青江。
青江はやはり丸亀城で見たニッカリと印象がよく似ていて、骨太な印象がそのまま。この分だと数珠丸恒次も同じような骨太な印象の刀なのかなとちょっと思いを馳せてみたりしました。
逆に加州は、本人曰くの「くせがある」が今一つ良くわからなかったんですが、これは切ってみると分かる類の話なのかなあ。

ついで兼定の二代目と十一代。こうして並べられるとニヨニヨしますね。
こちらは兼定についての説明つきでした。二代目の評価高いなあ。
しかし、上下に並べられるとやっぱり似たような印象を持つから不思議です。技術の継承というのもあるけど、他流との技術交流もないわけじゃなかったろうになあと。
兼定で伝えられた流儀ってものなんでしょうか。

あと長谷部国重、大和守安定、なんですが……。
大変申し訳無いんですが、これ、という記憶があまり……。
あ、大和守安定は打刀だけじゃなくて脇差しも打ってるんだ、と思ったりはしました。
会場で単眼鏡片手に熱心にメモを取っておられる方がいらっしゃいましたが、私もそのくらいすればよかったと思います。

それから粟田口国吉。鳴狐を打った人の刀ですね。
実は粟田口の短刀は一口だけ以前別の場所で見たことがあります。備前長船刀剣博物館のお守り刀展でのことです。
華やかな印象の強い長船の短刀の中で、一振りずいぶんすっきりした姿をしてるなと思ったのが粟田口の短刀でした。
今回会場で見たのも同じくすっきりした印象でした。

そしてこの章最後を締めたのが国永の太刀と国俊の短刀。
国永についてはまず「鶴丸国永の人の!」ってのでテンションだだあがりでした。
しかも太刀。これテンション上がらない訳ないですよええ。
で、実物についてですが。まず大きい。大きいですね、太刀。備前長船刀剣博物館で見た大太刀よりはもちろん小さいんですが、これを振り回すのかと思うといや無理だわ―となるくらいには。
ただ、大きいんだけどものすごい存在感がある、という感じではなかったんですよね。綺麗な刀だとは思ったんですが、思ったよりも優しい印象というか。
明るめの色の地?にやわらかくたゆたうような刃紋が出ていました。あと太刀だから切っ先に行くに連れて徐々に細くなっていくのは分かるんですが、それにしてもだいぶ細めな印象を受けました。
後述しますがすぐ隣に安綱の太刀が並べられておりまして、存在感はそっちに食われてた気がします。
それにしても写真撮りたかった……! いや、丸亀のニッカリとか北野天満宮の髭切とか写真取らせてくれる方が珍しいってことはわかってるんですけどね! きっとこの五条国永とはここ以外では会うことはないからなあ。

それから国俊の短刀。
幅は広めに見えました。ともすればすぐ上に飾られている国永の根本?側と同じくらいの幅なんじゃないかってくらいで。
が、刃はあまり大きくつけていない様子。
なお国俊はこの展示で唯一拵えまで展示がありました。柄は粒が綺麗に出た鮫皮に龍をかたどったと思われる金の目貫。鞘は金梨地の漆仕上げと思われます。漆が瑞々しい艶やかさで、実に贅沢で目に楽しい一品でした。
でも目貫については前から気になっていたことがひとつ。細工物として素晴らしいものですが、あれ、柄を握りこんだら痛そうで力入れにくそうなんですがそこんとこ大丈夫なんでしょうか?

2章 噂の刀〈戦国BASARAなど〉

続いての展示がこちら。
伊達伝来のものと真田伝来のものとを各一振りずつということでしたが、ぱっと見よく似た印象の刀だなあと思いました。いや、細かく見たらきっと違うんだろうけど。
時代的にこういう刀が主流だったのかなと思います。
しかしあれだ。真田丸ちゃんと最初から見とけばよかったです。

3章 鎧甲冑(よろい)と日本刀

実は展示場所の順番的にはこの章が一番最初でした。もしかしたら後から順番を入れ替えたのかもしれません。

それぞれ見事な造作の鎧が3組。……鎧ってどう数えるんでしょう。分からん。
ことに素晴らしかったのは金箔押本小札緋威胴丸という鎧。
部位の名称はたった今ググった程度の知識で語りますが、佩楯?の外枠にめぐらされた織物やら、袖に使われている織物(多分緞子)がほんと見事なものでした。

そうそう、一緒に村正や来国行の刃が飾られてました。
どうも国行の刀は見るたびに印象が違うというか。刃ごとに全然印象が重ならないというか。
初めて国行の刀を見たのは香川県立ミュージアムでのことで、そこでは「随分キラキラした印象の刀だなあ」と思ったんですよね。表面にエッチングでもしてるんじゃないかという感じで。
それが、今回の展示ではもっとずっと重々しく刀らしい印象になってて。単純に光の加減なのかもしれませんが、おかげで印象が定まりません。

4章 妖刀村正

この企画で実は一番力入ってんじゃないかと思われたのがこの章。
これでもかというくらい様々な村正を見ることが出来ました。
村正が何故妖刀と呼ばれるに至ったか。その結果村正の打った刀がどのような扱いを受けるようになったか。あるいはどのようにして村正の打った刃を守りつつ村正作ではないように見せようとしたか。その例がほんと盛りだくさんに見せてもらえました。
村正の「正」を切ってみたり、銘そのものをヤスリで削りとってさらに新たにヤスリがけして新たな銘を刻んでみたり、「村正」に線を加えてみたり。「次はどんな手を使うんだろう?」という感じで面白かったです。

5章 日本刀の源流

この章はかなり面白くて、日本刀剣博物技術研究財団のサイトによると「在銘で最も古い部類の」安綱の太刀から、おそらく会場内で最も新しい刀であろう三笠刀(というらしい)が展示されていました。
ただ、場所の関係かな。三笠刀だけはBASARAの2章と村正の4章の間にちょっと隔離状態でした。

この章では大和文化であった直刀(ヤマトタケルノミコトが持ってそうなあれ)がいかにして今の日本刀の形になったかという解説がありました。
直刀で刀といえば刺す文化圏であった大和朝廷側が、なぎ払う湾刀の破壊力に魅せられ、東北の刀工を連れ帰ったのだとか。来派の「来」はこの時連れてこられた一族だったという説もあるんだとか。髭切の話といい、当時大和朝廷側がどれだけ東北圏を脅威に感じ、早急にその文化を取り入れなければと思っていたかが現れているようで面白いです。
ということで東北側にルーツを持つ刀の展示が続いてました。宝寿、舞草というのはそちらの方の地名だそうで。ただ、ここで直刀そのもの、湾刀そのものの展示はなく、そこはちょっと残念でした。

さて安綱。
やはりこちらも場所の関係でなのか、五条国永のすぐ隣にありました。
同じ太刀ということでつい見比べちゃったんですが、こうして並べられるとあれですね。安綱ってほんと「豪腕!」とか「切れそう!」って感じですね。あと頭悪い言い方で申し訳ないですが、北野天満宮で見た髭切と雰囲気がよく似てました。
比べると国永はもう少し優しい感じ。
何がそう思わせるのかなあと結構会場内で粘って見比べてみたんですが、これ、と一言で言えるような違いは自力では発見できず。いやきっとこれ刀を見慣れた方なら難なく指摘して戴けるんでしょうが。
国永の方がじゃっかん細身に見えましたが、国永の太刀の切っ先の隣に安綱の茎側が来るという位置関係だったので、目の錯覚説が拭いきれません。
あえていえば峰側の印象の違いなのではないかと。……たぶん。
国永は比較的明るい色合いで靄がかかったようで、安綱は印影がはっきりしているように見えました。が、これもぱっと見の印象なので確証はありません。

そして三笠刀。
ロシアのバルチック艦隊を破った戦艦三笠の主砲から作られた刀(軍刀?)だそうです。
短剣と剣の2本が展示してありました。どちらも峰側に「皇國興廃在此一戦」の彫刻入り。字体がちょっと他の刀では見られない感じでした。
しかしいいですねえこれ。こういう来歴ありって大好きです。とうらぶ目当てに来て、思いがけず全く違う方向から好みのものを見せて頂きました。
刀としての印象ですが、色味が他の刀に比べてもかなり白っぽい気がしました。
砲身を作るための鉄と刀を打つための鉄では製鉄方法が違うはずだから、色味の違いはその違いかもしれません。
しかしこれ、刀としてはどうなんだろう? どのぐらい切れるんでしょうか。
刀の「折れず、曲がらず」はいろんな硬度の鋼を重ねて叩いて伸ばして実現しているといいますが、砲身を形作る時は鋳型に流し込んで焼いて削って(と言うととんでもなく乱暴な言い方ですが)必要寸法を出すらしいので、粘りとかぜんぜん違うんじゃないかなと素人としては思うわけで。
作刀の際に叩いていれば大丈夫なもんなんでしょうか。謎だ。

全体としての感想

ほんとはこのまま「仏教と刀」展についてもレポしようと思ったんですが、結構長くなったんで次回に。
ひとまず「噂の刀展」のみのまとめ感想を。

見せ方がうまいと思います。
完全にターゲットを絞り込んだ上で、どうすれば入り口にたどり着いただけの人をより深いところまで誘い込めるか、よく練られた展示だったなと。

まず展示する刀の選定。
集客できる刀を選ぶのは当然なんですが、ここでゲームなどに出てくる刀そのものではなくても同じ刀工によるもの、縁のある刀工によるものも選んでいるというのがいい。
たとえば鶴丸国永なんてきっと一生見る機会はないでしょうが、同じ五条国永の打った太刀を見ることで多少なりとイメージを持つことが出来る。
あと虎徹ふた振りの真贋鑑定ですね。あれはほんとうまい。すごい人数が並んでましたよ。
それでいて、ひょいっと戦艦三笠の主砲から作られたという刀を展示に混ぜてくれる。とうらぶとは何の関係もないですが、個人的に今回の展示で一二を争うくらい興奮した一口であります。変遷していく鉄っていいよね!
そこから妖刀と言われる村正について、丁寧に解説した上で様々な誤魔化し例を見せる、という持っていき方。素晴らしいです。

それに解説者が完全に現代の視点からすべての解説を書いてくれていたのが良かったですね。
それこそ刀剣乱舞始めるまで知らなかったんですが、刀剣の描写って独特の言い回しがありますよね。
まず尺寸法であること。耳慣れない各部位の名前。まあ部位なら覚えればいいことですが、刀の様子の描写に至っては「沸」やら「匂い」やら、普段使うけどおよそ金属や包丁とは縁のなさそうな言葉が当たり前に使われていること。利きワインか、というくらい独特の表現が目白押しです。
自分的には「なんで刀に板目や柾目って木材と同じ言い方をするの? 杢目ってどういうこと? なんでそんなことが起こるの?」というのが一番疑問でした。今回の展示ではそういう疑問に対して現代の言葉で解説されていました。それが本当にありがたかったです。出来ればこの方に解説本出して欲しいくらい。

多分主催者さん的には、最終的に刀剣購入してほしいなと思って展示を企画していらっしゃると思うんですよ。わりと露骨にそれを誘導してらっしゃいましたから。
いやでも実際あの展示見てたら、短刀とか一振りくらいいいかもって思っちゃいましたね。出来れば現代の刀工の方の作で、なんて。
自分のミスで錆びさせるのが嫌なんで実際に手を出すことはないと思いますが、ちょっとそんな夢を見ちゃった展示でした。